インプラントについて

当院のインプラント成功率11年間(2009年7月~2020年12月)

  • 対象:29人(男性14人 女性15人)
  • 埋入本数63本(経過良好62本 転院のため追跡不可1本 予後不良0本)
  • 使用インプラント:ブローネマルクシステム(ノーベルバイオケア社)

インプラントのメリット

インプラント治療が盛んに行われてきているという印象を持ってから、5年くらいでしょうか。私が大学を卒業した10年前には、まだ大学にインプラント科はありませんでした。

インプラントの良い所は、ほとんど自分自身の歯と変わらなく噛むことができる点にあるでしょう。慣れてしまえば意識しない限り、自分の歯と同じように食事することができます。

また、見た目が良いという点も上げられます。義歯にあるクラスプ(歯にかかる金属のバネ)などをなくすことができるため、見た目には、歯がなくなったようには見えなくすることも可能です。

特にこの見た目に関しては、部分入れ歯などより簡単に目的を達成することができやすいと思います。

また、ブリッジなどでは、歯肉が減ってしまった所が黒く見えますが、そのようなことをなくすことも、外科術式の進歩から可能になっています。


そしてインプラントの場合は口の中を広く感じます。義歯を入れると、舌の動く空間が狭くなるために、やはり違和感を感じやすいものです。しかし、インプラントでは自分の歯とほぼ同じ大きさにすることができるため、口の中での違和感を少なくすることができるのです。

またブリッジや義歯のように、健康な歯を削る必要もありません。

「歯医者が歯を削ると歯が悪くなる」といった、患者さんの認識を打ち消してくれる所も、大きなメリットになるでしょう。

しかしながら、実際にはインプラントでも骨を人為的に削ることに、変わりはないのですが……。

精神的にも良い点があります。なんといっても、とり外し式の入れ歯はイヤなものだと感じている患者さんが多いのは事実です。ブリッジも基本的には義歯と同じなのですが、圧倒的にとり外し型の義歯の方が嫌がられているようですね。

その点、インプラントでは固定式の装置が入るので、患者さんに受け入れてもらいやすいのです。

噛み合わせの位置が変化しにくいという点も上げられます。上下共に全てインプラントによる義歯の場合、総義歯のように粘膜がへこんだり、あごの骨が少しずつ吸収するといった変化がとても少ないので、長期間安定した噛み合わせを保つことができます。

インプラントのデメリット

それではインプラントのデメリットは何でしょうか?

前回『歯は抜くな――インプラントの落とし穴』を出版したときには、まだインプラントによる事故は起きていないと書きましたが、その後初めてインプラント治療による死亡事故が発生してしまいました。

《2007年7月14日 産経新聞》
インプラント手術中に出血止まらず女性死亡

この記事によると、2007年5月22日、70歳の女性がインプラントの手術中に出血が止まらなくなり、別の病院に運ばれたものの翌日に亡くなったとのことです。

つつしんで亡くなられた女性のご冥福をお祈りしたいと思います。

《2007年9月7日 東京新聞》
第三の歯インプラント 利点の裏にリスクも

といった記事も出ています。この記事からは、歯の無料相談を実施するNPO法人「歯~とふるライブラリー」ではインプラントのトラブルが急増し、寄せられる相談の約半分を占めているそうです。

また、名古屋大学付属病院・歯科口腔外科の上田実教授のもとには、インプラント治療を受けた後、神経麻痺で口の感覚がなくなった、痛みが残るといった患者さんが、年間約50人は訪れるそうです。

新聞にこうした記事が出始めているというのは、インプラントのデメリットがだんだんと世に出てきているということでしょう。


インプラントは最終的な処置である

骨に対する外科的な処置を行う際には、これが最終的な処置であるという概念を持つ必要があると思います。歯はあくまでも付属器ですが、骨は「骨格」なのです。つまり骨は私たちの身体本体の一部であり、歯はオプションの1つであると言えばわかりやすいでしょうか。

医療の現場では、少しくらいの腰や膝の痛みから手術に発展することは、あまり多くありません。膝の人工関節の手術をされている方は、寝返りも打てないほどの痛みがあったりするものだそうです。

リウマチなどの人工股関節の手術でも、何度もやり直しができないケースがあるので、なるべく長い間自然の関節を使うように指導されている医師の先生もいらっしゃいます。

本来、歯科インプラントは無歯顎(歯が全くない状態の顎のこと)の患者さんのために考えだされ、それが1本の歯の欠損にまで応用できるようになったものです。

前に述べたように、とても良い面もありますが、このように実際に死亡事故等が起きるということは、やはり通常の歯科治療(かぶせものやブリッジ、義歯など)に比べると、ハイリスクハイリターンの処置方法だということでしょう。

患者さんには、それを理解した上で、この方法を選択していただきたいと思います。

インプラントの事故を防ぐために

それでは、このような事故を防ぐために、どんなことができるのでしょうか。

歯科の領域でも、特にインプラント手術を行う際には、CT撮影を行う回数が増えてきているようです。現在では、CT本体を持っていなくても撮影を行ってくれる施設が増えてきており、非常に便利になってきています。またインターネット回線を使って、CT画像データの送受信や各種処理も可能になってきています。

CTで、インプラント自体の方向、傾き、深さを立体的に決めることができるようになった。

3次元的な診断ができるようになったことで、より正確に治療計画を立てて手術することができるようになった。

CTによって、かなり高い精度で骨の構造が立体的に把握できるようになりました。最近では、このCTのデータをパソコン上でコンピューターガイドシステムとして手術のシミュレーション計画を立て、実際の外科手術を行う際に、反映させることもできるようになってきています。

CT上でインプラントを立てる位置、方向、長さ、深さなどを決定して、それを誘導するマウスピースのようなもの(サージカルテンプレートという)をつくり、それをガイドとして実際の手術を行います。

プラスチックと金属でできたサージカルガイド(マウスピースのようなもの)を用いて手術を行うことで、術前に診断した箇所にインプラントを埋入することができる。

こうして、より安全になったことで、患者にとっても治療方法の選択肢が広がった。

NobelGuide、iCAT、10DRなどと呼ばれているのが、このコンピューターガイドシステムです。

これまで術者の感覚のみで行っていた手術に比べ、CTの画像データを用いて診査することで、様々な偶発症を予防し、治療効果を上げることもできるようになり、安全性がより高まったといえます。

これを実際に行ってくれる歯医者さんなら、かなりの確率で偶発事故を予防できるでしょう。

また、他の病院にかかる場合に、CTの画像データを貸し出してくれる医院もあるようです。このような考えを持った医院が、より良いと思います。

受診のたびにCT撮影するのは、身体にも決して良いことではありません。こうしたことも、最初に確認しておくと良いでしょう。

しかし、中にはいまだにCT撮影をしない医院もたくさんあるということです。これには様々な意見がありますが、やはり私はCT撮影を行う施設、データの貸し出しが可能な施設をおすすめします。

インプラントだけでなく治療全般に言えることですが、結局のところ、最後は人なのです。あなたの担当医が、どんな考えでインプラントを勧めているのか、良く相談して決めてほしいと思います。

インプラントのメインテナンス

インプラントをより良い状態で長持ちさせるためには、自分の歯と同様か、それ以上に丁寧なブラッシングが必要です。

また、インプラント以外の自分自身の歯も、しっかりとみがく必要があります。口の中の歯周病が悪化すると、インプラント周囲にも炎症が生じやすくなるためです。

インプラント周囲で、特にブラッシングに注意してほしい所があります。

インプラントによる治療は、うまくいっている場合には自分の歯と見分けがつきづらいものですが、それでも実際には違いがあります。

外から見て周りの歯との違いが分かり難くても、実際には違いがある。それを理解することが長持ちさせるための第1歩となる。

隣同士の歯よりも骨の高さは少し低いことが多く、その分歯肉の厚みが厚いのです。

この歯肉とインプラントが接する部分は、通常の歯と同様に結合している部位もあります。しかしその結合も、全体的には歯と歯肉の付着に比べて弱いものであることがわかっています。

したがって、インプラントの周囲では、歯と歯肉の境目、特に歯肉の中へ歯ブラシの毛先を入れる感覚がより大切になります。

色の部分が汚れないようなイメージを持つことが重要。

歯周病の予防や治療でブラッシングするのと、ほぼ同じイメージで歯ブラシを当てていくことが大切。

またインプラントは、インプラント同士を2本、3本と連結することで安定性を向上させていることが多く、ブリッジの手入れと同様、連結部のブラッシングや歯間ブラシ・デンタルフロス(特にスーパーフロスと呼ばれるもの)の使用が大切になります。

ブリッジと同じように、インプラントも連結してある部分を丁寧にしっかりとみがく。

インプラントとインプラントの連結部分、インプラントと歯の間に、しっかりデンタルフロスなどを通す習慣を身につける。

インプラントの連結部はワンタフトブラシなどで良くみがく。歯医者で歯科衛生士に、特殊なブラシの使い方をしっかりと教わることも重要なポイント。

インプラントの連結部やブリッジの下をきれいにするにはスーパーフロスが適している。これは歯科医院でないと入手しにくいので、歯医者さんに問い合わせてみよう。

太線の部分をしっかりとみがいて清潔に保つことが、インプラントを長く使うポイントになる。

奥歯は、矢印のようにスーパーフロスを用いて汚れを拭きあげるイメージを持つ。

自然な歯は、正常な状態でも前後左右に少し動くものですが、インプラントは骨に結合するという特性から全く動きません。それに加えてインプラントの上部構造(かぶせもののこと)は多くがセラミックによって作成されています。

この2つの点から、噛み合わせを定期的に微調整しないと、インプラントだけに大きな力がかかりすぎてしまったり、自分の歯が大きく削れたりします。

したがって、自分自身の歯とインプラントのクラウンがバランス良く噛み合うように、インプラントのクラウンを定期的に調整することが大切になります。またインプラントは、通常の歯とはやはり噛み心地が異なるようなので、丁寧な調整が必要とされます。

定期検診の際、少なくとも1年に1度はしっかりと噛み合わせのチェックや調整を受けられた方がいいでしょう。

また、定期検診では歯周病と同様のチェックをしてもらうことも重要です。なぜなら、歯周病の細菌がインプラントを支える骨の吸収に関与する可能性があるからです。

だからこそ、自身の歯の歯周病予防・再発防止とインプラントの長期安定には、口腔内を清潔にすること、規則正しい生活・食生活をして歯周病や虫歯を予防することが、よりいっそう大切になります。

定期検診では、噛み合わせとインプラント周辺の歯肉に炎症がないかをチェックしてもらい、もし炎症があれば新たにそれに対応する処置のプログラムを行うことが必要になります。

飛行機やスポーツカーは、その性能を引き出すために、常に整備・洗浄・消耗品の交換等が必要です。インプラントは通常の歯科治療に比べると、そのような飛行機やスポーツカーに近いと考えるとわかりやすいのではないでしょうか。

つまり機能が高い代わりに、メインテナンスにかかる時間・費用もまた多くかかるということなのです。