根管治療

根管治療の進め方

歯周病検査
➡︎歯周病と根尖の病巣の関連を調べます。
レントゲン撮影
➡レントゲンを撮ることによって歯根の形態や状態が分かります。
虫歯の部分を取る
➡※しっかり取らないと根管治療の効果が減少します。
歯髄の除去・根管清掃
➡根管の中にいる細菌を取り除いてきます。
根管拡大形成
➡汚染された歯の壁部分を取り除き、しっかり薬が詰められるようにしていきます。
根管充填
➡最終的な薬を詰めていきます。

※ここで重要なのは唾液が入らないこと!(ラバーダム防湿)

根管治療実症例

見て分かるようにまず、

  •  根の先にまで薬が詰まっていない
  •  歯の根の数は3根あるにもかかわらず全てに薬が詰められていない

このような場合だと治療後は治ったと思っていても数年後に再治療となってしまうケースが多く、再治療の度に歯には大きくダメージが加わります。
なぜならば歯科医師の仕事は歯を削ることがほとんどだからです。
だからこそ、最初の治療を丁寧に行うことが一番大切です。

歯の中はこうなっている

このうちの「歯内療法」(根管治療)について、以下に詳しく見ていきます。まずは、歯と歯周組織の模式図を見てください。

歯と歯周組織(歯を支える周りの部分)の模式図

左の図を横から見たもの。

歯は、表面をおおうエナメル質、その内側にある象牙質、中央部にある歯髄、歯根の全面をおおうセメント質からなっています。
「歯髄」の中には、血管や歯をつくる細胞、神経繊維などが入っています(歯医者さんが患者さんに説明するときは、「神経」と言っています)。
歯の下にはそれを支える骨(歯槽骨)があり、その上を歯肉が覆っています。歯は骨によって支えられているので、しっかりと物を噛むことができます。歯は歯肉で支えられていると思っている方も多いようですが、これは違います。
また、歯と骨の間には、物を噛んだときなどに圧を感じる歯根膜という組織があります。この歯根膜があるおかげで、髪の毛1本の厚さでも、私たちの歯は厚みを感じることができます。また強く噛みすぎて歯が割れるようなこともありません。
インプラントや義歯では、この歯根膜の働きがなくなってしまうことが大きな違いになります。

歯の中はこうなっている

歯の根を治療する必要が生じる主な原因となるのは、虫歯によって「歯がしみて痛む」「熱いもので痛む」「歯にひびが入りしみてくる」「歯周炎が進行して歯の神経にバイ菌が入ってズキズキとした痛みが出る」などの症状が出た場合が主なものです。
ではなぜ虫歯で歯にズキズキという痛みが出たときに、神経をとらなくてはならないのでしょうか?
それは歯髄腔(歯の神経や血管などが入っている空間)が、出入り口は狭いが奥は広いという、袋小路のような形をしているからなのです。

歯と歯の間が虫歯になったとき
虫歯の部分が神経に近づくと神経の中に感染が生じてしまう。

神経(歯髄)は噛み合う部分ほど広く、歯根の先端付近は狭い。

つまり出入り口が狭いということは、「新鮮な血液がたくさん入ってくることができない」「感染した血液が出ていきにくい」「うっ血した状態が改善しにくい」という構造なのです。

そのため、歯髄腔に対して一度にある程度の細菌感染が生じたり、歯の神経の一部が死んでしまったりすると、歯の神経の自然治癒が見こめず、大きな痛みが生じたり、歯を支える骨が壊れたりします。

歯などによって細菌が歯髄の中に入ってしまうと、新鮮な血液の供給が少ないために、歯髄全体が化膿していく。

身体の表面の腕や膝などでも、切り傷を経験することがあると思います。その場合は、傷の周囲から新鮮な血液が大量に循環してくるので、清潔にして止血することで自然治癒に向かいます。

腕の傷には周囲から新鮮な血液がたくさんくる。

しかし歯の場合には、歯髄にある程度の感染などのダメージが加わると、歯髄全体にそのダメージが広がっていき「何もしないでもズキズキする」といった痛みが生じてしまうのです。これは、川の流れというより、池がよどむといったイメージになるでしょうか。

また、このズキズキした痛みは、3~4日すると自然に痛まなくなることがあります。
これはほとんどの場合、歯髄が完全に死んでしまって知覚がなくなったためです。

噛んだときに痛みはありますが、何もしなければズキズキはしません。しかし時間がたつと、今度は歯を支える骨が壊れていきます。

痛みがない(少ない)からと虫歯を放っておいた状態。歯髄(神経)は完全に死んでしまい、知覚がなくなっている。

歯髄の知覚がなくなり、痛みはあまり感じない状態でも、歯髄は細菌によって化膿している。病変は歯から歯を支える骨へと波及していってしまう。

痛みがなくなったので、そのままにして過ごされる方もいますが、それは良くありません。やはり痛みが少なくなっても、治療はしっかりと行った方が良いでしょう。
根管治療とは、このように細菌に感染してしまった歯髄をとり除き、薬をつめることによって再感染の危険をなくし、歯を長く使えるようにする治療なのです。

根管治療の進め方

1. 歯根の長さ・数・曲がり具合をチェックする

それでは根管治療の手順を見ていきましょう。
まず、術前のレントゲンで歯根の長さや数、曲がり具合などをチェックし、次に虫歯の部分をとり除いていきます。
虫歯の中には大量の細菌が含まれていますので、まずはこの部分をしっかりととり除くことが、根管治療の長期的な予後に影響を与えます。

また歯髄をとり除いていくのと同時に、歯根の長さと曲がり具合を再度チェックしていきます。ここが根管治療で最も大切なポイントとなります。

虫歯の部分は細菌などによって高度に汚染されているので、まずはこの部分をとりきることが重要。

歯髄腔(根管ともいう)全体の長さや曲がり具合などを、リーマーやファイルといった治療器具で調べると同時に、歯髄をとり除いていく。

歯根はまっすぐではなく、多くのものが曲がっているので、根管全体を探すのを途中であきらめてしまったり、先端の位置が正確に把握できないなどといった状況が出てきます。
根管の歯髄をしっかりとりきることができないと、いずれその部分が化膿する可能性が非常に高くなるので、再治療が多くなるのです。
また間違って掘り進んでしまう、本来の歯根先端とは異なる所に孔をあけてしまったりすることで、数多くの不完全な根管治療が生じています。

根管治療が難しく、不完全になりやすい所。多くの失敗がこの治療の最初の部分で生じる。

この部分の作業(穿通という)は、治療時間の70%程度を占める重要な部分です。リーマーを根管に挿入した状態で電気的に長さを測るのと同時に、レントゲン写真によっても長さと曲がり具合を精査します。ここで2通りの方法によって長さを測定することが大切なのです。
特に、この根管治療の途中でレントゲン写真を撮るという作業は、とても大切です。
本来、歯髄腔は身体の内部であり、そこには血流があります。そこに根管充填材(ガッタパーチャというゴムの一種で、歯に入れる薬)を入れるということは、人工股関節や心臓ペースメーカー、歯科インプラント、冠動脈に対するステント(冠動脈を広げる治療で使用する金属状の筒)をほどこす治療と、似ているとは思いませんか?

歯科治療では命に関わることが少ないので、似ていないと考えることもできますが、上記の処置はすべて、身体の中に人工物を入れるという意味では同様の行為なのです。
だからこそ、治療の途中で歯根の長さ、曲がり具合を調べること、薬を入れる位置を確認すること、薬を入れ終わった後に不備がないか確認すること、そして不備があった場合はそこから戻って修正することは、治療の方向性を修正・決定するための、とても大切なステップなのです。

2. 根管を拡大形成する

レントゲン精査後は、根管を拡大形成していきます。これは細菌によって汚染された歯の壁部分をとり除き、薬をしっかりとつめるための器づくりです。

治療を必要とする根尖部分。この部分の細菌感染と薬の充填不備が、治療の予後に影響を与える。

左の赤丸部分の拡大図。根尖周囲の歯の壁には、細菌感染や細菌の出す毒素、膿などで汚れがしみこんでいる。

汚れがしみこんだ部分を、リーマー、ファイルといった治療器具を使って削りとってしまう。

先端部分にしっかりと段差をつくり、歯に薬を押しつけることができるように形づくるのが大切なポイント。

根管の長さと曲がり具合がしっかりわかれば、この行程はそれほど難しくはありません。
しかし力を入れすぎると、歯根先端が割れてしまうことがあるので注意が必要です。
歯は硬くもありますが、もろい性質も併せ持っています。歯根先端は歯の厚みが薄く、もろいので、時間をかけてゆっくりと形づくる必要があります。この治療にけっこう時間がかかるのも、このためです。

3. 根管を充填していく

しっかりと根管の拡大形成が終了した時点で、根管充填を行うための薬の試適を行います。ここで使われる薬は、ガッタパーチャというゴムの一種で、根の中で長い間安定する性質を 持っています。これを拡大形成が終了した空間に緊密に充填していきます。
元は歯髄が入っていた空間を緊密に充填することで、細菌が繁殖する空間をなくすことが、根管治療のゴールになります。この根管充填が緊密でないと、隙間の部分が血液や組織液で湿って、再度化膿して痛みが出ることが多くなりますので、しっかりと緊密に充填することが大切です。

根管の拡大形成(汚れた部分をとり除いて薬をつめる形づくり)が終了した時点で、根管充填(根に薬をつめる)のための薬の試適を行う。

不完全な根管充填。緊密でないために隙間の部分が湿って、再度化膿してしまう。こうならないためにも緊密な充填が必要になる。

削りとられた根管(歯髄腔)が、再度汚染されないように、人工物で緊密に充填することで、歯を抜くことなく、その後も使うことができるようになるのです。

こうして、根管充填材であるガッタパーチャポイントに、シーラー(酸化亜鉛ユージノールペースト)という糊の役目をするペーストをつけて、薬を根管につめていきます。
そうすると、歯根の先端から薬(シーラー)が飛び出るので、根管治療の後にズキズキとした痛みが出ることもあります。

根管充填材は、ゴムの一種で根の中で長い間安定する性質をもつ「ガッタパーチャ」と、糊の役目をする「シーラー」の2種類で成り立っている。

緊密な根管充填を行う。マスターポイント(主となるガッタパーチャポイント)を1本入れ、残りの隙間にアクセサリーポイント(先端のとがったガッタパーチャポイント)を入れて、隙間を極力なくしていく。

これは擦り傷が海水などに触れると痛んだりする現象に似ています。歯根先端から出た薬の刺激による痛みは、1~2週間くらいで薬の吸収と共になくなっていくので、心配のある痛みではありません。

ここで要約すると、根管治療とは、神経が膿んでしまった状態の歯を長く使えるようにするための治療方法だといえます。 根管治療をしっかり行っていない歯は、その歯を支える骨が壊れて(化膿してなくなってしまう)痛みが出たり、骨が溶けてなくなって膿が出たり、歯が揺れてきたりします。
このような状態になるのを防ぎ、歯を使える状態に保つのです。また、一度根管治療をされている歯でも、再度しっかりと治療をやり直すことによって、膿などの各種症状を止めることができます。

根管治療が不完全で根の先に膿がたまっている場合。根管充填が根の先端まで緊密でないと、再治療が必要になるか、抜歯になるケースが多くなる。

再治療をしっかり行うことで歯を長く使うことができる。

根の中の病気と歯周病が併発した状態。医師が「抜く」と言う歯の多くは、このような状態にある。

根の中と外側の両方を治療することで、歯が割れてしまうまで使うことができる。しかし、こうした場合は、外からの見た目が悪くなりやすい。

神経をとった歯はもろくなる

ちなみに患者さんからは、「治療の後はどのくらい長持ちしますか」と聞かれることが多いのですが、それに対する最も適切な答えは「歯が割れるまで」というものだと思います。
歯の神経をとってしまうという行為は、木の枝から葉をちぎるようなイメージだと思っていただきたいのです。
枝から離れた葉は、時間がたつごとにもろくなっていき、1か月もたつとパリパリと割れやすくなります。神経をとった歯は、本来の寿命の半分くらいになると私は考えています。
例えば、ある人が100歳まで生きるとして、50歳で歯の神経をとってしまうと、75歳くらいで歯が割れることが多いのではと感じています。
神経が生きている状態でも歯が割れることはありますが、神経をとった歯は、ことにその後の破折との戦いになります。
しかし、噛み合わせや残った歯の本数などで、長い間使い続けることができる歯も多くありますので、「治療の後はどのくらい長持ちしますか」という質問に対しては、個人差が大きいので予測がしにくいと答えるのが正しいと思います。
だからこそ神経はなるべく残す。歯もなるべく削らないことが大切なのです。そして、どのようにしたら虫歯や歯周病にならないか、その予防方法を患者さんに理解してもらい、それを実践してもらうことが、私たち歯科医療従事者の使命だと思います。

なぜ根管治療を行う歯科医院は少ないのか

二〇〇七年を表す漢字が「偽」であったように、この年は、耐震偽装、食肉偽装など、いろいろなことがありました。見えない所は手を抜くという行為が、様々な業種、というより全ての業種に存在しているということなのでしょう。
また最近では、モンスターペアレンツや、モンスター患者などという言葉が言われるようになってきました。
仕事を頼む方、請け負う方、共にモラルというか、ルールがなくなってきているのだろうかと思うと、寂しい感じがします。
歯の治療は、かぶせものなどは患者さんも直接、鏡などで見ることができます。しかし、歯の根の中の治療や、歯根の外側の治療である歯周病治療など、見えない部分の治療は、丁寧でないこともあるようです。
それに付随して、根の治療や歯周病治療、予防処置などにかかる治療費は、日本の健康保険制度の場合、世界的に見ても1/10~1/6という低い額に設定されているため、歯科医院の経営の中で赤字部門になりやすく、まじめにやればやるほど医院経営的に苦しくなるという現状もあります。
歯の治療は本来とても時間と手間がかかるものです。そうでなければ歯科大学に6年間、研修医として1年間、トータルで7年間という長い期間をかけなくては、歯科医師という仕事ができないという制度にはならなかったと思います。
しかし、ふたを開けてみると、いまだに30分に1人の予約で、マグロの競り市のように患者さんを並べて歯医者が飛び回る診療所もざらにあり、所によってはそれが1時間に10人、1日70~80人を診ていることもあるというのですから、これにはいろいろな疑問を感じます。
床屋や美容院、また何かのプライベートレッスンをしたとしても、それにどれくらい多くの時間がかかるかを考えれば、このような状況をおかしいと感じられるのではないでしょうか。
面倒くさくて、儲からないことはやらない。歯を残すことは本来とても難しいのでできない(なぜなら、歯を抜くことが最も簡単な原因除去療法であることは間違いないからです。健康保険の最低限度の医療では、歯を抜くことが、時間・コスト・処置内容からも妥当なのかもしれません)。
したがって、しっかりと根管治療を行う医院は少ないのでしょう。